アクション・ゲーム
「ただいまーっ」
僕は学校から帰ってきて、靴を脱ぎ散らかして大声で挨拶をして、ドタドタと階段を駆け上る。
目的は昨日買ったばかりのゲーム。クラスの中でもまだ僕しか持ってない新作だ。
学校の授業中もゲームのことが気になって気になって、授業に身が入らなかった。おかげで先生からも怒られた。
何より痛かったのは同じクラスの麦穂ちゃんにに笑われたことだけど…。
まぁいいや、ゲームでスカッとして忘れちゃおう。宿題もあとあと、寝る前にやればいいや。
ヘルメットのような形をしているHMDをつけて、筐体を開けてゲーム機に乗り込む。
電源をオンにすると、HMDから頭の数点とこめかみのあたりに接続棒が伸びて来る。
頭についてる端子と接続されると最初はキュィィィン。という耳鳴りのような音がする。
けどこれがまた興奮するんだなぁ。これから待っている世界の幕開けの耳鳴りなんだから。
目を開けるとそこは見渡す限り真っ白な風景。地面に足がついてるかどうかもわからない。
「ゲーム選択、ファントムエッジ」僕がそう喋ると、あたりの風景が一変する。
廃墟のような町。これが新作ゲーム「ファントムエッジ」の世界。
僕は特殊繊維で編み上げられた防弾スーツを身にまとっている。この瞬間から僕は世界を支配する敵と戦うエキスパートになったのだ!
武器を選択する。僕が気に入ってるのはビームサーベルみたいな剣と小型の拳銃。
「ワールドモード」僕が選択して。ゲームは開始する。
すぐさまあちらこちらから敵が迫ってくる。敵はよくわからないサイボーグやアンドロイド、メカ忍者などなどだ。まぁどうせすぐ倒すからあまり関係ないんだけど。
片手で剣を振るとォン。と熱が空を薙ぐ音がして、サイボーグに剣が当たる。
当たった先から敵の金属の体を切り裂いていって、熱風が顔に当たり、溶けた金属のジュウジュウという音と科学的な刺激臭が鼻をつく。
敵は次々と襲い掛かってくる。一体、二体、三体…視界いっぱい。
僕はたまらず舌なめずりした。たまらないね、この感覚。手触り、におい、音。
すべてゲームだとわかっていても、脳に接続されたゲームから送り出されてくるのは間違いなく本物の感覚。
僕は思いっきり跳躍すると足元の敵めがけて銃を乱射する。重力に任されるままに落下しながら、剣を新体操のバトンのようにくるくると回転させて。
あらゆるものを切り刻む。
着地してから、遅れて敵が崩れ落ちる。ねっとりと生暖かい機械油が僕の全身を包む。
さぁ、そろそろボスだ。
と目の前を見ると、あれ。ボスはもう倒れている。
目の前には僕と同じくらいの年頃の子供。同じような姿格好をしている。
どうやらゲームに乱入されたらしい。ボスを先に奪われてなんだか悔しいな。
「君があんまりにも遅いから僕が先にボス倒しちゃったよ」
むこうの子供がケラケラと笑いながら、馬鹿にした口調で言う。
「何だと! よーし、勝負だ」僕はソイツに戦いを挑む。このゲームは初めてだけど、ゲームの基本はどれもこれも似たようなものなので、僕には勝機があった。
敵の名前をみる。KOUICHI.K。ふん、ネット上でネームを晒してるなんて馬鹿みたいだ。
さてはこいつ初心者だな。僕はKOUICHIの天狗の鼻をへし折ってやろう、とにやりと笑った。
武器を持ち変える、拳銃を剣にして、二刀流で立ち向かおう。相手は拳銃メインのサブが剣。このゲームの初期スタイルのようだ。
「銃なんかで僕に勝てると思うなよっ!」
僕は脳でイメージして足を動かす。実際に足を動かすのではなく、どういう動き方をして敵に近寄るのかをイメージする。そうすればゲームでは、その通りに移動してくれるのだから。
円を描いて相手の側面に回りこむように移動する。相手は予測どおり銃で牽制してくる。これだから素人は。
僕は目に意識を集中させる。敵の銃口から僕の体へと直線を引いて、その部分を軽くサッとずらす。瞬間、遅れて銃弾が通り過ぎる。
2発、3発目と銃弾が来るが、同じこと。ダンスゲームと一緒。上から順番に来る矢印を踏んでいけばいいのと同じだ。
「…っ」
敵はたまらず大きく跳び退る。対人でこんなオーバーなアクションをするなんて。やっぱりこいつは慣れてないんだ。
「あはははははっ。ばいばい、KOUICHIちゃん」
僕は勝利を確信すると。
敵の背後からバック宙をするようにして。
相手の背中から。
剣を振り。
背中、頭、そこでターンして頭頂部からつま先までをパックリと。
手に引っかかるような感触と抵抗。
ジュウ…。
肉の焦げる音。
ステーキの匂い。
「覚えてろっ」KOUICHIの捨て台詞。
僕が着地すると。
2つに分かれたKOUICHIだったものが。
地面にゆっくりと。
プツンッ。
そこでゲームは途切れた。
僕がHMDをはずすと。そこにはママがいた。
「こらっ。またこんなゲームばっかりして!」
大人はこういうゲームが大嫌いだ。子供の発育にどうたらとか、影響がどうたらとか。
もちろん僕のママもその類に漏れたことではなく。やっぱり大嫌いだった。
ガチャン。と僕の足元に放り出される重い物体。
自動小銃だ。
「そんなオモチャで遊んでないでお外で『実戦』してきなさい!」
ママは僕を見据えたまま、後ろの窓に向けて拳銃を撃った。ズドン。
「最近物騒なんだから……」
外では、窓越しにいる強盗が。脳漿を吹き飛ばされて。窓からずり落ちて。
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