恐怖体験

  最近、どうも誰かにつけられているような感じがする。
  なんて始まり方の文章を書くといかにも一波乱ありそうな感じだが。実は本当にそうなのだ。

 夕方、犬の散歩をしていたときだった。もうすぐ月も高く上ろうとしている。黄昏という、一日で最も危険な時間帯だ。
  ヒタヒタ、ヒタヒタと何かが歩いているような音が聞こえるではないか。もちろん僕の真横にいる4足歩行の生物ものではない。
なんと表現したらいいか、そう。裸足で平坦な道を歩いているような、そんな音だ。

 僕の家の近くは、車道以外は草木に覆われているという山林のため、たとえ何か生き物が歩いたとしてもヒタヒタなんて音は決して出ず。ガサガサというのが普通なのだ。
  では、何だろう。このヒタヒタという。妙に気持ちの悪い音は。
そんな悪いコンディションの僕の胸中など察してくれるはずは無く。ヒタヒタ音はどんどんと僕の方へと近づいてくるような気がする。

 見渡す限り誰もいない、後ろ以外は。では、やはり後ろか?
まだ、家から数百メートルも歩いていない距離だ。そして、後ろを振り向けばやはり家が目視できる距離にある。一本道の一直線なのだから当然と言えば当然か。
  おかしい、家を出るときには見渡す限り僕と犬以外にはいなかったはずなのに。
そんなことを考えているうちにもヒタヒタはどんどん近づいてくるように聞こえる。
  やばい! 僕はそう直感して。後ろなど振り向かずに一目散に走り出した。しばらくの間、犬の吐息と僕の靴音、そして心臓の鼓動だけが聞こえる。
もう20にもなりながら随分と臆病だ。と情けない思いもしたが、これで安心だ。

 息を切らせながら、とっとと家へ帰ろうと思ったその瞬間。
ビタビタビタ。とさっきの足音のようなものが今度は走っているような音が聞こえてくる。
  ひっ、と僕は声を上げ走り出そうとするが足音のほうがずっと速い。もう真後ろまでビタビタという音が聞こえてきて。僕は思わず後ろを振り返った!
  後ろには何もいない。

 安堵した。幻聴だったんだ、と僕は思い込むことにした。汗がドッと噴き出して、思わずへたり込みそうになった。
そして前を見ると、なんだか犬の影が妙な形に盛り上がっているではないか。
  犬を見ると…………。



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