マリオネット

 暗い部屋。月明かりだけを頼りに僕と彼女、ふたりきり。
紅いワインも闇に焦がされ、真っ黒。ただ月を映し、てらてらと輝く。

 そんな中でも彼女の瞳はまるで輝いているかのように。獲物を捕らえた獣のように僕を放さない。
しなやかな黒い髪はまるで意志をもっているかのように、僕の手のひらで踊る。すくっては流れ、すくっては流れ。
ほら、早く私を捕まえてごらんなさいと、言わんばかりのその動き。
赤い口紅からちらちらと覗く舌はまるで蛇のよう。できることならその舌に絡め取られてしまいたい。

 僕は彼女の耳に口元を寄せ、そっと囁きかける。
「さぁ、どうしてほしい」
  彼女は喜びとも不安ともつかない声で囁き返した。
「私はあなたのマリオネット。どうぞあなたのお好きなように」
  僕は彼女のなめらかな首筋に舌を這わし、そして再び囁く。
「君が僕のマリオネットだというのなら、体中を縛って、文字通り僕の操り人形にしてしまおうか」
  彼女は諦めと期待の混じった声で応える。
「あなたがそれを望むのなら、私は喜んでご主人様と答えるしかありません。 
このマリオネットをあなたの意のままに操りください」
  僕はワイングラスから手を離す。
彼女の肩から背中へと手を回して闇色のドレスの紐に手を掛け………ピー。
電子音が響く。

 彼女の顔を見ると目がチカチカと点灯している。
「っち、最新型はバッテリーがみじけーな」
  僕は彼女の首の裏の製造ナンバーが書かれた蓋を開け、そこからプラグを引っ張り出してコンセントへと差し込んだ。



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