自分たまご

  久しぶりに地元の夏祭りに参加した。
面子は幼馴染の男1人と女1人、そして俺。

  縁日なんてもんはどこへ行ってもどれだけ時代がたっても大して変わらないもんだな。と思った。
  ほら、売ってるものだって大してかわらない。焼きそば、あんず飴、綿飴、お面、ヨーヨーすくいに金魚すくい。

  カナエ(幼馴染の名前だ)が言った。
「金魚すくいの『すくい』っていう字は『救い』って書くんだよ。だから僕たちが金魚を救ってあげなきゃ」
「馬鹿じゃねーの」と俺とタケキ(これも幼馴染の名前だ)は鼻で笑った。
  だけど結局カナエは金魚を救ってやることができず、情けでおっちゃんに金魚を一匹もらっていた。
「まぁ、結果としては一匹救えたんだからいいよね」

  ふと気がついたようにタケキが言った。
「しかしあれだ。ひよこは売ってねーのな」
「ひよこ?」
「アレだよ、ブルーひよこ。お前ら知らないのか?」
「ああ知ってる、ずいぶん昔のやつだよね。ていうか僕らが子供のときにもなかったじゃない、そんなの」
「それに確か、あれって大人になったら普通の鶏になっちゃうんだよね」
「まぁ、ひよこ着色してあるだけだしね」
「っち、ちげーよ!あれはちゃんと青い卵を産む青い鶏になるんだっ」
  タケキは今まで本気で青いひよこがいると信じていたようだった。

  隅っこにまだ見ていない屋台があることに気づいた。
「なんだろ、あの屋台。いってみようか」
  近づくとそれは、色とりどりの卵を売っている屋台だった。卵は大きさもさまざま。そして安っぽい板に『たまごひとつ300えん』と書いてあった。
「ほらみろ。これだけいろんな色の鶏がいるんだ。鶏ブルーがいたっておかしくないだろー」
  と、そこへ屋台の親父が声をかけてきた。屋台の親父らしからぬ妙な雰囲気を持っている。
「いらっしゃい。たまご、安くしとくよ」
「おいさん。この卵っていったい何の卵なんだ?」とタケキが尋ねると、
「そりゃあんた。こいつは『自分のたまご』だよ」
「『自分のたまご』?」
「ああ、そうさ。こいつを大事にもっててやると、自分の大切な大切なものがでてくるのさ。」
「馬鹿馬鹿しい。こんなもんに300円も費やしてらんねーよ」タケキはいかにも胡散臭そうな口ぶりで言った。
反対にカナエは「面白そうじゃん、買ってみようよ!」と乗り気。二人はいつもこうだ、正反対で水と油。なぜ二人が一緒にいるのかと聞くと。俺がいるから、なのだそうな。俺は石鹸水かなんかか。
『xxx(俺の名前だ)はどうするの?』と二人は声を重ねて俺に尋ねた。
「よし、じゃあこうしよう。カナエとタケキで勝負だ、いいものが出てくればカナエの勝ち。逆ならタケキの勝ち。」
「おもしろそうじゃないか、勝ったら何もらえるんだ?」タケキが挑戦的な態度で言った。タケキはこういう賭け事が大好きだから、勝負と聞くとすぐに乗りたがる。
「勝ったほうが負けたほうに、そうだなぁ。今日の屋台の代金ってことでどうだろう」
そういうわけで、俺たちはたまごを買うことになった。

「どれにしようかな」俺がたまごを選んでいると。親父が口を挟んできた。
「あー、あんたのは・・・これだな」といって淡い緑色のたまごを渡してきた。
「ちょっと。選ばせてくんないの?」
「いやいや、もうどれが誰のたまごかは決まってるんだよ。あんたならこれ。嬢ちゃんにはこれ(といって真っ赤なたまごを渡した)、兄ちゃんにはこれだ(白黒のまだら模様のたまごだ)。はいはい、しめて900円ね。別に温めなくてもいいから、3日間大事にもっててやんな」
  面倒なので千円札で俺が払い。その日はそれで解散した。

  2日後、町でタケキと偶然会った。
「おう、タケキ。たまごの調子はどうだ?」と聞くと、タケキは不機嫌な調子で答えた。
「ああ。持ってるよ」と言ってポケットから真っ赤なたまごを取り出した。
「おいおい、割れたら大惨事だぞ」
「いやそれがさ、本当はフライングして割ろうと思ったんだよ、縁日の日。したらさー、ぜんぜん割れねーのこれ」といってたまごをコンコンと叩いているが、ヒビすら入る様子がない。
「これ、本当に卵なのか? 石膏かなんかだったりして」
「しらねーよ、まぁ割れなかったら賭けは僕の勝ちだな」とタケキはニヤリと笑い、去っていった。

  そして3日後。俺たちは数少ない町のハンバーガーショップに集合した。
「で、本当に割れるのか? これ」とタケキが言う。
「今日で3日目なのにね」カナエも心配そうに言う。
  結局、1時間くらいだらだらと雑談してしまった。こういうことができるのも気の会う者同士なんだろうな。なんて思った、そのときだった。

  ピキッという音が走った。3人の視線はおのずと自分のたまごの元へ。そう、たまごにヒビが入っていた。全員が「嘘だろっ」という顔をしていた。俺もまさか割れるなんて思ってなかった。
  しかしそれからさらにヒビが入るのには時間がかかり、俺たちはさらに1時間もたまごを凝視している羽目になった。
  同時に、たまごが割れた。その中から出てきたものは・・・。
「・・・・・これは、僕の負けだな」とタケキはつぶやいた。
「すごいすごい! ねぇ、もう勝負とかどうでもよくない!?」カナエは大はしゃぎしている。
  俺は唖然として声も出ない。

  3人のたまごからでてきたものは。一枚の同じ写真だった。縁日の日の、笑い顔の3人の写真が。




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