おかいもの
町の商店街。そこにある八百屋。
そこへ一人の女の子がやってくる。見るに中学生くらい。
店の親父は威勢良く言う。
「へいらっしゃい!今日はなんにしやすかね」
答える女の子。
「えっとぉー。わたし、お買い物たのまれてて。ミョウガっていうお野菜を探してるんですー。
でもでも、わたしそのミョウガっていうの見たことなくてー。おじさんに探してもらいたいんですけどぉ」
それを聞くや否や機関銃のように喋る親父。
「おぉっと!そうかいそうかい。おーい、かぁちゃん!かぁちゃんってばよ!
・・・・ったく、アンニャロまーたユン様だかヤン様だかの追っかけいってんだな。
いやぁ、すいやせんねぇ。いつもは俺っちが仕入れにいって、あいつが店番してるもんるんだがよぉ。
今日は俺っちがたまーにゃ店番してやろうっていうとすぐあれなんでさぁ。どっかいっちまう。
ええっと・・・・で、何でしたっけね。嬢ちゃんが探してる野菜は」
困ったように答える女の子。
「えっとぉー。ミュウガっていうんですー」
でもでも、とまた同じ台詞を喋る女の子。
「そーかい、そーかい。ミョウガねぇ。
あ〜。ん〜。・・・すまん、嬢ちゃん、俺っち度忘れしちまったい!かぁー」
ぺしり、と捻り鉢巻の上から額をたたく親父。
親父はある野菜を取り出して。
「いやな、聞いとくれよ、嬢ちゃん。
俺っちは毎朝このナントカっつう野菜を食べてるんだがよ。 もーこいつはすげぇ野菜なんだ。
これだよこれこれ。色は赤紫と緑で、小ぶりなんだが、セロリみてぇな鮮烈さがシャキーンとドタマに響いてくる。
こいつぁ、ネギみたいにシャクシャクとした食感なんだが。ネギみたいに匂いがきつい訳じゃねぇんだ。
薬味によく使われてるみてぇな事を聞くんだがよ。
もうこいつを食えば頭スッキリシャッキリの集中力バッチリで眠い目もソーカイに覚めちまうんだ。
なんだがー、こいつは物忘れを激しくするってー話なんだよ。
粋でイナセな野菜だがぁ、そいつがタマにキズだよなぁ。
つーわけで、すまん!この野菜のせいで俺っち、ミョウガが思い出せねぇんだよ!」
長い長い機関銃弁解を聞き終わった女の子は落胆して
「そうですかぁ〜。残念です。
でもー、そのお野菜すごーいですね。今日はミョウガが見つからないからお野菜買えないけど。
次にここでお野菜買うときは、それもいただきますね。
わたしもスッキリシャッキリバッチリのソーカイになりたいですー」
「おう!本当にすまねぇな嬢ちゃん。
俺っちも次までにミョウガってぇ奴とこの野菜の名前を思い出しとくからよ!」
それじゃあ、と言って去る女の子。ありがとうございやした!と頭を下げる親父。
めでたし、めでたし。
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