蝉爆弾

  今年もこの日がやってきた。
・・・そう、今日は蝉爆弾の日だ。

 いつからか蝉は地中に潜ることを放棄した。蝉は自らの呪縛を断ち切るために進化したのだ。蝉は異様なスピードで進化を進め、進化の枝を伸ばし続けた。獣のように地を走る蝉。鳥よりはるかに長く、力強く空を飛ぶ蝉。海を泳ぎ魚を食らう蝉。そしてついには、人の体を手に入れるまでになった。世界中には蝉が現れるようになった。
最初の人型の蝉、蝉の王は公言した。
「我々は絶望した、人間の愚行に。我々は憤怒した、人間の狂気に。だから我々は地球の代表として立ち上がる。人間を排除するために!」

 そして戦争が始まった。蝉と人間との戦いが。
戦争は100年にも続いた。戦争はこのまま続いていくことになると誰しもが思っていたが、2発の画期的な爆弾がきっかけに、戦争は終結を迎えることとなった。
  一発は人間が開発した爆弾。蝉という蝉をすべて滅ぼす細菌兵器。蝉を駆逐するという意味からそれは蝉爆弾と名づけられた。
もう一発は蝉が開発した爆弾。人間のみならず蝉までもを滅ぼさんとする狂気の兵器。地球をゼロに戻すための爆弾は、自らの種族の誇りを冠して、蝉爆弾と名づけられた。
  しかし、2発の爆弾はどちらも効果を奏することなく戦争は終結を迎えた。

 人間と蝉とのハーフが世界を救った。更なる異形の者として蝉からも人間からも蔑まれた蝉人間が、人間と蝉の仲間たちを引き連れてその日、爆弾を止めたのだ。
蝉人間の彼は世界中へ向けて演説した。お互いに子を生せる種族が、なぜ争いあわなければならないのか、と。
  人間は自らのしてきた行為を反省し、蝉は第二の人間へと道を踏み外すところだった。そしてお互いが共存の道を歩むことになった。
  そして戦争が終結したその日、終戦記念日を通称、「蝉爆弾の日」と呼ぶようになったのだ。

 街を見れば、世界中でお祭りが繰り広げられている。人間と蝉と蝉人間と。仲良く手を取り合って。

←Back