正月

あるところにマサツキくんという、それはそれはお正月が大好きな男の子がいました。
なぜマサツキくんがお正月が大好きかというと、お正月は1日じゅうごろごろしていられるからです。
おまけにお年玉までもらえるので、マサツキくんは宿題の多い夏休みよりも、お正月のほうがずっと好きな子だったのです。
そんなめんどくさがりなマサツキくんが待ちに待ったお正月。だけど楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいました。もう今日で三が日もおしまいです。
「あーあ、お正月ももうおしまいか」マサツキくんがぼやいていると。そこへ玄関のチャイムが鳴りました。ピンポーン。
「マサツキ。ちょっとでてきてちょうだい。年賀状かもしれないから」そうおかあさんがマサツキくんに言いました。
「めんどくさいなぁ……はーい、どなた」マサツキくんは本当にめんどくさがりやです。渋々マサツキくんが玄関を開けると。

そこには一匹の獅子舞がいました。
獅子舞はおおきな口をうごかし、歯をカチカチと鳴らしながらいいました。
「おめでとう! マサツキくん。君があまりに正月が好きだから。君を正月の国へ招待することにしたよ!」
マサツキくんはびっくりです。
「正月の国ってどんなところだろう」
「正月の国は、ずっとずっとお正月なんだ。とっても楽しいところだよ。マサツキくんもおいでよ!」
「すごいなぁ。僕いくよ」マサツキくんは1も2もなく正月の国にいくことにしました。
「でも、お父さんとお母さんに言ってこなきゃ」とマサツキくんは嫌そうに言いました。お父さんとお母さんはきっと賛成してくれないだろうと思ったからです。
「大丈夫だよ、お父さんとお母さんにはもう話をしてあるから。さぁ、すぐいこう!」獅子舞はそう言うと、大きな口をもっともっと大きく開けて、大きな入り口になってしまいました。
「この中を通ったらすぐに正月の国だよ」
獅子舞の口の中を通るのはちょっと不気味でしたが、マサツキくんはおそるおそる足を踏み入れました。

すっぽりと口の中に入るとどうでしょう。そこはまったく別世界でした。
一面の雪の原。かまくらの家がところどころにあり、なかでは雪だるまの家族がお餅をやいています。
外では子供の雪だるまが羽根つきをしたり、凧をあげたりしています。
雪原の真ん中には神社があり、縁日が開いています。
「正月の国へようこそ!」いつのまにか獅子舞が隣にいます。
「ここでみんなでずっとお正月をしよう」
そうしてマサツキくんはずっとずっと、楽しくお正月をすごしました……。

ですがしばらく過ぎたころ。
マサツキくんがいつものように起きてみると、いつもと様子が違います。
神社は後片付けがされてますし、雪だるまたちも楽しく過ごしてはいません。みんなせっせと働いています。
「なにがあったの」ときくと。獅子舞は答えました。
「そろそろお正月を終わりにして、つぎのお正月に備えるんだ!」ふと見ると、神社には『お正月まであと3652日』という日めくりがありました。
「お正月の準備は楽しいよ! 最後の365日の大師走はずっと大掃除をして過ごすんだ! きっとマサツキくんも気に入ってくれると思うよ」
マサツキくんは寝耳に水です。
「ええっ。ぼくそんなの嫌だよ。ぼくそろそろ帰らなきゃ」そうだ、きっとお父さんとお母さんも心配してるだろうと気がつきました。
「駄目だよ駄目駄目。マサツキくんはずっとここで過ごすんだよ」獅子舞は当然のように言いました。
「ずっとずっとずっとずっとずっとここでみんなとお正月を過ごすんだ。マサツキくんはお正月が大好きなんだろう? 学校は嫌いだろう? ここは口うるさいお父さんもお母さんもいないよ!
だからマサツキくんはずっとずっとずっとずっとずっとここで過ごすんだよ」
獅子舞の歯がうるさくカチカチとなっています。カチカチと歯をあわせるたびにずっとずっとずっとずっと…と、念仏のように聞こえてきます。
あたりを見回すと雪だるまがマサツキくんの周りを囲んでいます。雪だるまたちもみんな口をそろえてずっとずっとずっと………。そう言っています。
マサツキくんは大慌てです。夢ならさめてほしい、と必死に思いました。お父さんお母さんごめんなさい。もうめんどくさがったりしませんから。たすけてください、神様。そうお願いしました。
するとどうでしょう。目の前が真っ暗になって、頭がぼんやりとしてきました。

マサツキくんはほっとしました。よかった、夢だったんだ。これからはちゃんとしよう。
そう思って目を開けると、そこはどこか知らないベットの上でした。
ずっと寝てたのかな、なんだか体がおもいなぁ。マサツキくんがそうおもってがんばって体を起こしました。
気がつくと看護婦さんが1人います。看護婦さんは信じられないものを見たような目でマサツキくんのほうを見ています。
看護婦さんは何かを叫んで出て行ってしまいました。どうしたのでしょう。
マサツキくんがふと壁にかけられている鏡をみると。

そこにはお父さんによく似たおじさんが一人、いました。



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