V3

  とあるバーで、初老の男性が2人。グラスを傾けている。
  ひとりはステッキにマント、黒のスーツに蝶ネクタイといういでたち。対するもうひとりは油で汚れた作業用のツナギという、なんとも対照的な格好だ。
  穏やかなムードの曲が流れる中、ぼそぼそと小声で二人の会話は進んでいく。
  まるで誰かに聞こえてはまずいかのように話しながら。

「こんなところに呼び出して何の用だ、私たちは敵同士のはずだぞ」
  ツナギがぶっきらぼうに言うとマントは優雅に答えた。
「別に取って食おうっていうんじゃないんだ、そうカッカすると脳溢血で倒れるぞ」
「ええい、うるさい。世界制圧をたくらむ奴らに心配などされたくはないわ」
 世界制圧と聞いてマントの男は鼻で笑った。
「何を馬鹿なことを、我々に統治されれば世界はより良くなると言うのに。人々の生活だってはるかに便利になるにちがいない」
  その言葉を流すかのようにグラスをあおると
「お前らの好きにさせてたまるものか」
 そうツナギの男はつぶやいた。

「今日はこちらの手の内を明かしてやろうと思ってお前を呼び出してやったのだよ」
  マントの男はいかにも自慢げに続けた。
「お前たちの元にある2機の失敗作もこれで終わりだな」
  ツナギの男はその言葉を打ち消すかのように
「彼らは決して負けはしないぞ。お前たちの浅はかな野望もすぐに砕いてくれるだろう」

  それを聞いてやれやれ、とマントの男は呆れたように言った。
「では説明してやろう。確かに我々は2度も失敗を重ねた。
  技術の1号、パワーの2号。これらの2機がそちらの手に渡ったのは大きな痛手だった。
  だがしかし、もうそれも終わりだ。
 我々は遂にあのポンコツよりもはるかに高性能で、量産できる物を開発したのだよ!
 教えてやろう、今度はなんと1号・2号両方の性能を兼ねたダブルタイフーンのV3だ」
 それを聞くとツナギの男は苦々しげに語る。
「彼らには決して負けない心がある。それがある限り、どんな相手にも負けはしない」
  マントの男はさも可笑しそうに否定する。
「あんな機械に心などあるものか、所詮は機械など便利な道具に過ぎんのだよ。心などというものは必要ない、ナンセンスだよ」
「何だと。彼らには・・・・!」

  二人の男が水面下の戦いを繰り広げる少し離れたところで、若いバーテンが先輩に話しかける。
「しっかしあのジイさんたち。毎日毎日、吸引力がどうだの2Wayだの。掃除機の話題でよくもずっと語ってられますね」
  先輩バーテンは答える。
「あの年にもなると男は夢見がちになるもんなのさ、童心に帰るんだ」
「……はぁ、そんなもんっすかねぇ」
 そこへ、おかわりー。と二人の老人の声が重なって聞こえてくる。今宵も会話は、白熱しているようだ。



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